6月10日(月)、新津高校にお招きいただき1学年の生徒を対象に「総合的な探究の時間」の導入に関する講演・ワークショップを担当させていただきました。
普段はキャリアに関する講演をすることが多いのですが、今回初めて「総合的な探究の時間」に関してお役目を頂戴したので、当日の振り返りも兼ねて、今高校現場で行われている教育の核となっている探究について書いてみたいと思います。
「総合的な探究の時間」ってなに?
もはや教育関係の皆さんなら言わずもがななのがこの探究。
いま戦後最大と言われる大改革が進行中のなかで、新しい学習指導要領(文部科学省が定める教師の指導方針や学習内容を規定したもの)のなかで2019年度入学する高校生から導入されることになったのが「総合的な探究の時間」(通称:総合探究、探究学習)です。
これまで「総合的な学習の時間」というものがありましたが、それをより時代に合わせる形で発展させたのがこの総合探究です。
他にもこの探究は各教科に入っていて、「日本史探究」「数理探究」など色んな教科のなかでも探究という学びが入っています。
これまでの学校教育では、教師が課題や問いを与え、それに対し生徒が正解を答えていく学び方が主流でした。
その成果は点数で評価されるもので確かめられるので、多くの生徒は教師が与える答えを覚え込み、試験やテストで吐き出すという暗記再生的な教育がうん十年と行われてきました。
恐らく、これを読んでいる方もそうした教育のなかで育ってきたのではないでしょうか。
暗記再生が教育システムの中心だった昭和的教育は、どんなに学びたくないものでも学ばなければいけなかったし、そのなかで特に興味のあるものがあったたとしてもそればかりを深く考えたり、調べたりすることもカリキュラムや時間割は対応しませんでした。
皆で同じものを、同じ場所で、同じペースで学ぶのが当たり前。
誤解していただきたくないのですが、暗記再生的な教育を全面的に否定している訳ではなく、かつてあった工業化社会の時代はそうした教育が社会にとって必要な時期もありました。
これまでの教育は、点数で評価されるテストに強い生徒、学ぶことの興味関心を置き去りにし将来の進学のために割り切れる生徒がシステムに順応でき、その結果そうした生徒達は優等生として評価されてきた訳ですね。
しかし、その功罪にどうなったかというと、日本では社会人となり学び続けること自体を卒業する大人が増えてしまいました。
しかし時代は「令和」です。
昭和の学びを引きずった平成の30年で日本はどうなったかは言うまでもないでしょう。
探究学習は簡単に説明すると問題解決型・プロジェクト型の学習方法です。
いわゆるPBL(Problem/Project Based Learning)といわれるものですね。
特定の問題やゴールと期間が定められたプロジェクトに対し、情報収集や調査、分析・整理し、それらをまとめて何らかのアウトプットを行っていきます。
このサイクルは私たち社会人が日々やっている仕事そのものと言えると思います。
この問題解決やプロジェクトの進行は当然自分だけでなく、多様な他者と協働して行います。何より、実社会と同様に「答え」は一つとは限らない訳です。
この時扱う探究のテーマ(問題やプロジェクト内容)は、教師が与えるのではなく、生徒の本当に興味関心のあるもの・自分の価値観やキャリアと不可分なものが題材となります。
探究学習で高校生は自分の興味関心を思う存分深めていき、学ぶことが意味あることだと実体験とともに理解し、将来の自分の姿を考えたり、知識の暗記再生だけでは身につかないコミュニケーション力や論理的思考力など非認知的能力を培っていきます。
そのテーマを探す際に、高校生が生きていく上でもっとも身近な社会である地域が出てきます。地域には解決を待たれるリアルな問題が山積していますよね。
探究学習は当たり前ですが教師は答えを持っていません。
そして正解なんてものもない。テストで点数化もできない。
だからそもそも教えるということはできないので、これまでの「指導者」という立場からアスリートのパフォーマンスを高めるコーチのような「支援者」に移行する必要があります。
今やどの高校現場でもこの探究をいかに進めるか、形ばかりだけでなく、ちゃんと生徒たちの資質能力を伸ばすものにするかが検討され、全国の高校で創意工夫が行われているのです(多分、恐らく…)
「これからの社会」で求められる力。なぜ探究をするのか?
そんな探究学習が導入されることになった高校1年生の生徒達に対し、意識啓発と必要なスキルを高めてほしいとご相談を受けてお話をするに至りました。
society5.0、AI、人生100時代、グローバル社会、超高齢化社会…これらの事象が同時多発的に起こることで社会がどんな姿になっていくのか、その時にどんな力が求められるのかを導入として伝えました。
(出来るだけ高校生を置き去りにしないように話したけどちょっと難しかったかな?)
個人的にこの探究を難しくしているのは、なんといっても高校の先生が探究というものをしたことがないことだと思っています。だからイメージでしか伝えられない。
それこそ、一度も食べたことがない外国の料理をレシピだけみて「これはこういうもので美味しいよ」と人に説明するようなものです。これじゃ魅力は伝えられないですよね。
社会の最前線で日夜探究をしている私だからこそ伝えられるものとして、2月に行ったGOSEN KNIT FES 2019を探究学習のサイクルになぞらえて事例を紹介しました。
なぜこれを選んだかというと、高校生プロジェクトで新津高校の近くの五泉高校の生徒にも協力してもらったからよりイメージが湧くかなと思ったから。五泉市から通っている生徒もいるしこれなら絶対伝わるでしょ、と。
案の定、前半のお話ではぽかーんとしていた生徒も、食い入るように聴いてくれました(笑)
高校生も、大人たちと一緒に活動すればこんなアウトプットができるんだと実感してくれたら有り難いです。
ワークショップ「自分を駆り立てる問い:Driving Question」を体験
導入の講演のあとは、グループに分かれてワークショップ。
今回は探究学習の質を高める上で大事な論理的思考力や質問力、観察力を育む場にしようと、Driving Questionを体験するワークを行ってもらいました。
自分の内側に沸いてくる言葉と普段考えたことがないような問い。
自分の内面を一段一段と降りていき、深く潜っていく体験は初めてで難しかったかもしれませんが予想以上に熱心に取り組み、記入してくれました。
自分の価値観が露わになったものを話すことにもなるので発表・共有はやや消極的な姿も目立ちました。ここは場づくりの上の問題もあるので今後の課題ですね。
現場では先生方もやってみて難しいと感じてくれたと思いますが、1年生でもある程度できるんですよね。
上手くいかないかもしれないけど、彼らの力を信じて任せてみること、これも指導者から支援者へのパラダイムシフトです。
探究は正解のない社会を生き抜く力を育むための学び
探究学習は実社会で求められる力をつけるための学びです。テストのための勉強とは本質的に違います。
この質を担保しながら推進をするには私のような実践者をはじめ、地域の理解・協力が必要不可欠でしょう。
教員ではどう足掻いても伝えられない部分がありますし、ちゃんと力をつけるためにはやはり学校のなかに留まらずリアルな問題と出会う必要があります。
今後高校と関わる機会のある皆さんも、ぜひ探究学習について関心を持ってもらえたら嬉しいです。
新津高校の皆さん、貴重な機会をいただきありがとうございました。
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山本一輝
Idea partners
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